自然界の乳酸菌を取り入れて醸す
江戸時代からの長い歴史をもつ「生酛」の酒。速譲が登場する以前、腐らない酸性の酒母を造るには、米や麹をすりつぶして溶かし、自然界の乳酸菌の降臨を待つしか術はなかった。おそろしく体力と時間を消費する重労働、かつ自然が相手だけに失敗も多い手段である。
21世紀の生酛の酒は、製法の原理に変わりないものの、酒質のスタイルには2つの潮流が生まれている。
1つは、複雑な味の幅と、スパッと切れる酸が表現された
古典派
としての顔。もう1つは、旨味と軽み、甘みと酸のバランスを設計した
モダン派
としての顔。
飲み比べてみると、味の輪郭や厚みに程度の差はあるが、後味のきれいさ、きめ細かさで共通しているのがよくわかる。通向きの濃厚辛口をイメージされがちな生酛だが、実はビギナーにこそ好まれるピュアな個性の持ち主であることを、飲んで実感してほしい。